ALL FETプリアンプ

First update 04/1/1
Last update 04/1/6

　ALL FETプリとは昔から縁が深い。初代のALL FETからはじまって、ハイブリッドプリアンプ(球-FET回路)を一時期愛用していた。当時のプリは2段目の2SJ72の効果と思われる、艶気たっぷりの美音が良くも悪くも特徴で、賞賛する人々がいる反面、Trプリ派の人を中心に否定派も多かったのが特徴だった。

　さて、今回は知人の依頼の製作で、旧ALL-FETプリメインアンプのリニューアルです。旧部品の活用が前提条件であるので、必然的にプリ部はALL FETとなります。作るからには新・単行本の最新プリをベースに、手持ちの入手困難な部品を生かしたアンプを作りたい、なおかつ今まで考えていたり、一部で知られていた新しいアレンジを組み込んだアンプを作りたい、という事で設計しました。ちなみにパワー部は今の段階(03年12月末)では基盤まで組んだ状態で放置中(^^;;

(作図に関しては、水魚堂さんの回路図エディタ BSchと諏柄渤人さんのライブラリーを借用いたしました)

　さて、回路図です。一見して単行本の回路と違う部位が多いのに、驚かれた方も多いかも。全体的なコンセプトとしては多入力プリ、なおかつフラットアンプはレコードとCDで共用、という事で製作します。これは記事のようにPHONOとCDでアンプを分離して使用するのが音が良いのは明白なのですが、オーナーの希望で使い勝手を優先に製作した、という感じです(あと予算も・・・)。そのかわり音質対策として、回路図には載っておりませんが、CD1以外のAUX入力はロータリーSWによってホットとアースの両方分離されるようになっています。PHONOとCD1入力の音質を優先し、ノイズ元となる他の機器を使用しない場合は根元から切り離す設計ですね。(アースが万が一の接触不良になり、その際に入力が入ったりすると、まずい事になりますから、本当はやってはいけません(爆)

　使用部品は、旧パーツを生かす形で、大幅に変更しています。V2AとNX-13T等は、今は入手しずらい部品の筆頭でしょうが、これは無理に入手しなくても代替部品でOKでしょう。初段定電流と2段目カスコードには2N5465を使用しています。これは2SJ103のウィークポイントである、躍動感が浅く薄い音色を緩和し、2N5465の音のキレを狙って使用したのですが、これはある程度成功したと思っています。2N5465は定評のある有名ブランドではなく、一時期流通した無名ブランドのものですが、これを使用しても、他の石を使用するよりは本物の2N5465の音に近いのが面白いですね。但し、足の位置が違うものが混じっているのでご注意。現行品ではインターシルやモトローラーの2N5461～5462が使えるそうです。

　2N5465カスコードは、フラットアンプにも入っています。これはKontonさんのシミュレーション結果を元に、フラットアンプにもカスコードを挿入する事で、更なる特性の向上を狙ったものですが、実際は100KHz方形波程度の観測では、カスコードの有無による違い等は全く観測されません(変化が無いからこそ、位相補正等の修正無しで使用可能、と読んだのです)。実際、音ではある程度の向上が聞けましたが、単に2N5465の音色の効果かもしれません。

　EQ初段カスコードには2SK117ではなく、2SK43を使用。これは2SK97と同一チップであるので音色統一を期待したのですが、どちらかというと手持ちの消費目的という側面もあり、特にお勧めという訳ではありません。

　続いてEQに入っている謎の回路は、金田式球プリ等でも活躍しているAOCです。これを石EQに使用する事で、カップリングレスを狙おうという魂胆です。AOCの詳しい詳細につきましては、金田先生の単行本を参照していただき、実際の効果と問題点は後述するとしまして、AOCの接続点を何処からもってくるかについてしばし熟考の上、2段目差動とカスコードの接続点からとしました。これは、2段目差動ゲート点から初段電流をもらう形でも全く問題なく、むしろAOCの効きという観点からすると有利なのですが、多数のFETをループに取り込む不安もあり、2段目の電流を泥棒する形でAOCを成立させる事にしました。約2段目電流の半分をAOC側に流すようにするため、2段目ソース抵抗Rs4と、AOC定電流側の可変抵抗Rs3は要調整です。

　AOCの差動アンプには、gmの大きな2SK146/2SK147を使用しています。2SK146は実はペア特性があまり良くないので、外装の金属ケースに切れ目を入れて中身を取り出し、手持ちのK147等と混ぜてペアを厳密に取り直して、エポキシ接着剤を使用して再挿入しています。ゲート－アース間の100Ωは気安めの発振止め、定電流に使用したK246Yは単に手持ちがあっただけで、K246BLでも問題無いでしょう。時定数を作っているCには、手持ちの都合でM2A角を使用しましたが、ここは音に影響ない、という金田先生の記事を信じて使用しました。(自分用のにはV2A丸を用意しているという卑怯者?です(^^;;)
　 AOCには、金田先生の作例のように、カスコードが入っておりませんが、これは電圧的には、K147のドレインに+20V強はかかりますから、耐圧の低いK147では下手をするとゲートリークからAOCの動作不良を起こしかねなかったのですが、あまり電流を流さない動作で深いバイアス=ソース電圧も持ち上がっている、のが幸いしたようです。これが、高出力Trプリですと、カスコード必須かと思います。

　このAOCのオフセット修正効果でカップリングレスが実現する訳ですが、元々のRIAA定数が、カップリングによる低域の減衰を見込んで低域が盛りあがった定数になっておりますので、カップリングレスになると低域が過多になります。これはレコードとCDで同一ソースで聞き比べ試聴の末、680KΩでベストの位置となりました。お手持ちの機器によっては、750KΩや820KΩの方が、ラウドネス効果で聴感上良い結果を得られるかもです。

　ちなみに、カップリングレスになったからといって、EQ出力に50kΩ等のATTを挿入して音量コントロールを容易に出来る訳ではないです。完全対称段の負荷ともなっているRIAA素子にパラになるために、劇的にEQ出力段のゲインが落ちてしまいます。これはGOA時代の電流出力アンプ時代の回路も同様で、詳細はkontonさんのサイトのシミュレーションで解析されています。ここら辺の事情をしらずに、ゲインVR(VGA)の使いづらさから、0.4uF+50kΩをEQ出力に使われる方もおられますが、安易に既存回路をそのまま流用すると、音痩せ等の音質悪化を招く可能性が高いです。ご注意を・・・。
　(ちなみにハイブリッドプリは、例外的に0.4uF+50kΩをEQに入れても大丈夫のように思われます。詳細は省略しますが、誰か試してみませんか? )

　あと、特記すべき事柄は、出力から-電源に繋がっている謎の2SK246Yによる定電流回路です。これは発案者の名前を取って、俗に「但聞ドライブ」と呼んでいます。これは、Niftyに但聞さんという方が発表した回路でして、2段目の差動右側電流が出力に流れていって出力がオフセットを出さないようにするためにオフセットを微調整する結果、完全対称出力段のバイアスポイントが上下で微妙にずれてしまう、という要素を、定電流回路で抜くことによって上下の出力段のバイアスを完全に一致させ、MHz帯域まで出力段の上下の動作を一致させよう、という意図です。調整は、2段目右側の電流を、上側ゲート抵抗(回路図で8.2KΩと820Ω)の両端電圧を実測して電流を計算し、その分の電流を抜くようにRs2を調整します。これの効果は、一聴しては殆ど違いを感じとれないものの、細かく聴くと音のディーテルや実在感、微細な音場感が違い、ドライブを搭載する価値が判ります。但し、カップリングレスAOCもそうですが、こういう余分?で、メイン回路回路が不備であるような印象を得る回路の実装は、例え音が良いとしても金田先生はお好みにならないような気がしますね。

　続いて製作中の写真をいくつか・・・
左の写真は電源部ですね。特に回路的に特記事項は無いので、回路図は省略します。使用しているケミコンはニッケミPW。フラット感と音のキレは抜群ですが、音の厚みは現行KMHが上か。値は35V3300uF。製作記事より少ない容量ですが、これでもハムは皆無です。あと使用しているダイオードは、PB102Fが2個。中身は選別された30DF2が4個入ったブリッジダイオードです。これも手持ちの活用ですね。特にPB102Fが良いという訳ではありません。使用しているケースはタカチのFUシリーズです。OSシリーズのようなフロント・リアパネル(金田式ではサイドパネルになっていますね)のような薄い部分が無く、外見も良好でオーディオにも好結果が得られそうなシャーシーですが、残念ながら数年前に廃盤とのこと。

　右は製作中の基盤の写真。音質比較前なので、AUDYN CAPがついていたり、NX-13Tが無かったり、2段目から電流を抜くFET定電流が無かったりしています。

　次はアンプ裏側の写真。最初の写真もそうですが、反射を避けるために、底板を反転させて、クリーム色の表面を晒して写しています。元々プリメインだったものの使いまわしですから、多数の穴が空いているのはご愛嬌。薄いシャーシーでNEGLEX2497の引き回し、セレクター周りを配線するのには苦労します。熱収縮チューブを使った末端処理がポイントです。EQ-OUTの2497は、アースが電源を通してループにならないように片アースとして、芯線のみ接続します。

　ライン入力にはスケルトンや進抵抗等で抵抗ATTを構成してからフラットアンプに入る訳ですが、ピンジャック直下にATTを設置しないで、一旦AT-1の端切れで中継基盤を作り、その上にATTを実装する事にしました。メリットとしては製作後の交換がより簡単になります。信号ケーブルは、PHONOとCD-1は2497、他の入力はSONYのRK-G129(127?)を使用します。SONYのケーブルは、2497と比べると音質が落ちるのは明らかですが、金田式で大事な、全帯域での均一なバランス感が崩れないので、比較しなければ違和感無く使え、セカンドソース目的や、仮試聴時に使用する内部ケーブルに重宝します。

　あと調整中の注意事項としましては、2SK117BLのバラツキだと思うのですが、Idssに10mA前後の大きなものを使ったら、出力段のFETのバイアスが記事の倍くらい深くて、そのままのゲート抵抗では出力段の電流が流れすぎるので設計の変更を迫られました。
　普通は初段定電流を変更するのでしょうが、初段電流が少なくなりすぎるのを嫌って、フラットアンプは2段目差動カソードRs5を8.2KΩに変更して対処しました。EQの方は、出力段バイアスが深いのとAOCで電流が吸い取られるのが相殺されて、設計の変更をせずに済みました。このあたりの対処法としましては、負荷抵抗を変更すると、アンプ全体のバランスを崩す可能性が高いですから、初段定電流か2段目ソース抵抗をいじるしかないと思います。

　AOCつきVerの調整ですが、それぞれのアンプのオフセットを仮調整したあと、フラット入力をミュート状態にして念入りに調整後、PHONOモードにしてEQと直結にして、フラット出力のオフセットをみながらEQの調整を行うと、厳密な調整が出来ます。直結ゆえのメリットですね。調整は仮調整のあと、天板の蓋をして最低30分くらいは出力を監視する必要があるようです。AOCに使っているK147自体のドリフトがあるために、じわじわと15分程はオフセットはずれてきます。ON直後にVRを廻すと、僅かにSPが動くくらいのオフセットが出ます。フラットアンプにもAOCをDCサーボ代わりに入れるか、AOCをEQ2段目ではなく初段に入れてAOCの効きを強化すれば良いと思われますが、これは今後の課題とします。あと、フラット入力部にあるミュートSWですが、EQ使用時に使うと、ノイズが出る事があるようです。EQの直流負荷が急変するのと、SWのチャタリングとが絡み合っているようです(ロータリーSWのセレクターに設けたミュートではノイズが出ません)。これもカップリングを取り去ったが故の不具合と言っても良いでしょう。対策を検討中です。

フロント画像

　裏側の写真で一見してお判りになるのは、ピンジャックに現行指定のスーパートロンではなく、以前の指定品だったサトーパーツの一般品を使用している事です。これも使用部品の都合でもありますが、このパーツも悪いものではないと思っています。但し、微妙に挿し具合が緩かったり、きつかったりするので、丁度良いものを選別する必要があります。新規購入はスーパートロンが無難ですね。サトーパーツのはんだ時には、中心部材の樹脂が溶ける可能性があるので、必ずダミーのプラグを挿してからはんだ作業をする事。実は、昔のもので赤白の樹脂素材が、ベークで出来ているものがあって、これが良いのですが、まず今は入手は不可でしょう。

　裏側の楕円型のめくら板は、元々キャノンの大きな穴があったのを埋めるためにアルミ板を加工しています。表パネルに、穴が残っていたり、レタリングが全くされていなかったりと完成というにはちょっとお粗末ですが、あとはオーナーに何とかしてもらいましょう(汗)

　期待の音質ですが、事前の情報で「上品」「やさしい音」「音色が薄め」という下馬評があって心配したのですが、2SJ72を使わず2SJ103を使用した効果か昔のALL FETのような艶のある音色は大分薄めなものの、FET系統特有のかっちりした正確な音場をベースに、クリアで高解像度、かつ2N5465の効果かキレとスピード感のある音に仕上がっていて、長岡鉄男氏推奨の優秀録音盤のもつ音場情報を余すとこなく伝えてくれるプリに仕上がりました。この音の感触は、かの名石・K134-J49(HMA-9500II等に使用)のもつ、クリアかつシャープな音を彷彿とさせます。

　さて、AOCを使用してカップリングレスをした効果ですが、V2AやAUDYN CAPでカップリングしたものと、カップリングレスでは圧倒的にカップリングレスの勝ち。ところが、SEコンデンサーとでの比較では、僅差でカップリングレスの方が良いものの、SEコン使用でもあまり音質劣化を感じない、という結果になりました(カップリングつきとカップリングレスでは、RIAA素子の関係で低域のレベルが変化しますから、定数を変えつつ比較しても、厳密な比較は難しいですが)。ちょっと意外ですが、それほどSEコンデンサーが良質なCである、という事かもしれません。AOCを追加する事で確実に回路としての複雑性は増しますので、SEコン1個で済むなら、AOCは必要ない、というスタンスの方が健康的かも?。

　あと1点、致命的な事柄なのですが、電源OFF時にフラットアンプのゲインを上げていると、ものすごいオフセットが出ます。これはOFF時にEQとAOCの足並みが揃ってない事から起きるものと思われます。もちろんフラットINにミュートを入れているか、先にパワーを切れば問題ないんですが、操作手順を間違って切ると、保護回路無しのアンプではSPが昇天・・・。これの解決策を考えないと、記事にしての発表は難しいでしょうね。また、電源OFF後、電解コンデンサーに残った僅かな電荷が、但聞ドライブのFET定電流を通じて出力→負荷(NF素子等)に流れるために、僅かなオフセットを発生させる事があります。電源にはOFF時に電源ケミコンをショートさせて電荷を抜くように、電源スイッチ周りを工夫した方が良いようです。

VR-mim

VR-mid

VR-max

　測定に関しては、ほぼ金田先生のオリジナルに準じているので省略いたしますが、1点だけ・・・。金田先生は記事中で大体VRを中間位置で使用するのがベストとされています。それを実測で探るために、100KHzの方形波をフラットアンプに入力して、出力波形を観測しました。測定では、発振器に日本オーディオのUA-1Sを使用。オシロはKIKUSUIのDSS-5040で、一番低歪な出力領域の4V P-Pの出力で観測しました。(注・画像は波形の立下り側が鈍っているように見えますが、これはオシロの校正不足です。恥かしい(^^;)
　さて、一見するとVRの中間位置が(僅かなオーバーシュートがあるものの)一番正しい方形波を出力し、VR-mimに廻すと方形波は角が僅かに落ち、VR-Maxに近づけるとオーバーシュートが出て、波形も僅かに台形になってきます。これは、試聴時はVRを出来るだけ中間位置で使用するのが良い、というものを裏付けているように思われます。

　実際の試聴では、最初にVGA(可変ゲインアンプ方式)が採用された当時より、VRの位置による音質劣化は少なくなったと感じています。これは、初段で位相補正をする現在の方式が、VGAの特性とよくマッチしたのだと思っておりますが、それでも全てのゲインの位置で特性を揃えるのは難しいので、恐らく中心位置で一番ベストになるように調整されたのでしょう。
　また、このVRの最適位置は位相補正のCを増減するとずれてきますし、出力レベルとVRの位置によって、最適位置は変化していきますので、位相補正の値は単純な方形波の観測ばかりではなく実際に楽音を出して、トータルで一番良い位置を探る必要があります。アンプの実際の運用時には、オーバーシュートについてはあまり気にすることなく音楽を楽しんで欲しいですね。この程度のオーバーシュートが出ても、VGAを廃して固定ゲイン+出力にATTを入れる方式よりずっと音質劣化が少ないです。　(了)